(令和5年4月11日時点の記事です。)

「NHKをぶっ壊す!」のフレーズで有名な政治家女子48党(旧N党)が党代表権の帰属で揉めているようです。SNS界隈では、「結局法律上誰が代表者なの?」「登記申請したから代表は変わっているの?」など様々な疑問が飛び交っています。

まず、私は「政党」という特殊な団体での登記申請はしたことがありません(性質上ほとんどが東京にあったりするのでしょうか・・。)。
しかし、株式会社の登記は何度も行っているので、基本の原理原則は理解しております。
添付書類の種類等の細かい差はあるかも知れませんが、今回の件を株式会社の規定もなぞってあてはめてみようかと思います。

結局誰が代表者なのか?

株式会社で言えば代表者を決めるのは株主総会や取締役会、定款(会社の規定)となります。定款は株主総会によって決められるので、株主総会が大きな権限を持っていることがわかります。
取締役会は設置している会社と設置していない会社があり、設置している会社については取締役会で代表者を決めることとなります。

一方、代表権の「消滅」に関しては代表者本人の「辞任」や株主総会、取締役会による「解任」「解職」があります。

本件でSNSでアップロードされた立花孝志氏の政党の登記申請の内容としては申請書上で旧党首としている大津あやか氏が「辞任」となっているので、この「辞任」が為されたかどうかが論点の一つとなります。
辞任と言う行為は何も辞任届を出すことで効力が生まれるものではなく、あくまで書類は手続きや証拠保全のためのものとなります。

こちらの判断については、当事者が争った場合は裁判所の判決によって決せられます。

登記申請は必要なの?

株式会社については「会社法」、政党交付金の交付を受ける政党に関しては、「政党交付金の交付を受ける政党等に対する法人格の付与に関する法律」に登記申請義務の規定があります。
しかし、ここでの登記はあくまで法律上の状態を公に示す役目のものであって、登記によって代表者が変わる訳ではありません。
代表者は登記以前に辞任や就任等の原因によって変わっているのです。

しかしながら、金融機関や行政機関は登記が完了した「登記事項証明書」を確認するので、実質的には登記なく様々な手続が行えないようなシステムになっています。
このように、法律上の代表者が誰なのかという部分と、登記上の代表者が誰なのかという点は別で考えなくてはなりません。
もちろん、これらを一致させるべく速やかな登記が必要です。

登記申請はどうなるの?

本件の登記申請において、立花孝志氏がアップロードした登記申請上の添付書面は「委任状」の一点のみでした。

これが株式会社であった場合、申請は・・・却下されます。

なぜなら辞任には辞任届を要するからです。
仮に動画撮影等で辞任したことが明らかであったとしても、そのような理由で添付書面を省略することは許されません。
書類不備で提出先の法務局から補正連絡があった場合、それを追って提出する形で登記申請が通ることがありますが、それが無い限り却下されてしまうでしょう(現実は取下げを促されます。)。

株式会社ではなく政党の場合はどうなるの?

「政党交付金の交付を受ける政党等に対する法人格の付与に関する法律」の第7条の2第2項によれば、「前項の規定による登記の申請書には、前条第二項各号に掲げる事項の変更があったことを証する代表権を有する者の記名した書面(代表権を有する者の変更があった場合には、他に代表権を有する者があるときは当該変更があったことを証するその者の記名押印した書面とし、他に当該書面を作成することができる代表権を有する者がないときは当該変更があったことを証する代表権を有していた者及び代表権を有するに至った者の記名押印した書面とする。)を添付しなければならない。」

とし、旧代表者の記名押印した書類が必要だという形で読み取れます。
法令を素直に読めば、委任状のみで登記申請が通るようには思えないのですが・・・。
本件が戦略的に「とりあえず登記申請を出す」という手法をとったケースなのかはわかりませんが、これで登記完了まで至るかどうかは補正対応の有無も含め見守る必要がありそうです。

偽造などの罪に問われないの?

あらかじめ、念のため申し上げますが、私は司法書士試験科目に刑法があったという部分においては全くの無知ではありませんし、法律上裁判員裁判に裁判員として参加できない程度の専門家ではありますが、業務上刑事事件を取り扱うことが無い素人でもありますので、その点を踏まえて読んでいただきたいです。

本件での罪については、不実の登記申請をしたことによる「公正証書原本不実記載罪」と、委任状を勝手に作成したという体で「有印私文書偽造罪」がSNS上の話題にあがっております。

前者については、刑法と言うのはそもそも故意犯を処罰するのが原則であるところ、旧代表が公で辞任の意を表明したと少なくとも思っている陣営が「虚偽の申請だと思って本当にわざとやっているのか?」という部分に疑問があります。したがって、私見ではありますがこちらでの処罰は現状の情報だけで言えば難しいものだと考えております。

後者については、登記申請は基本的に登記上の代表者ではなく「現代表」がするものであるというところから、現代表が作成した委任状であれば問題無いと考えます。
ちなみに株式会社で言えば特段の規定が無い場合には代表取締役は複数でも良いため、新代表は新代表の権限に基づいて登記申請するのは何ら問題ない行為だと言えます。
これが仮に「旧代表者が退任しないと新代表者が就任できない」という縛りがあった場合、この場合は先程の公正証書原本不実記載罪の故意ではないというくだりをそのまま考えれば良いかと思います。

こちらについても情報待ちで、今後どうなるか見守る形になるでしょう。

まとめ

以上の通り、ざっと感想レベルの内容を書きました。

時間も無く、情報も少ない状態での記述なので今後の事態の経過によって見解が変わるかも知れません。