「会社設立」

このうたい文句で営業する事務所は少なくありません。

しかも格安で。

「お近くの司法書士事務所に依頼するより安価で~」というのが売りなのだと思います。

では安ければいいのか?

そこを考えてみましょう。

実際に自分で株式会社を設立した場合の費用

  • 登記の登録免許税(法務局)・・・15万0000円(多くのケース)
  • 定款認証手数料(公証役場)・・・約5万2000円
  • 定款の印紙代・・・・・・・・・・・4万0000円

以上、合計で約24万2000円ほどかかります。

登録免許税は、資本金の額の7/1000が15万円を超えた場合、その額が採用されます。
資本金が2000万円を超えない限り15万円と単純に考えましょう。

定款の印紙代は、「電子定款」であった場合は0円です。
この「電子定款」を作成するには「電子署名」が必要です。
電子署名をするまでの費用や手間を惜しまなければ印紙代は省けますが、大体の方はそのまま書面に印紙を貼るでしょう。
なお、司法書士が受任した場合は当然のように全て電子署名もやってくれます。

税理士・行政書士が行う場合

税理士、行政書士は会社設立登記の代理申請をすることが・・・

できません!

ではなぜ会社設立をうたう事務所があるのかと言いますと、
行政書士には「定款作成・認証」を代行する権限があります。
この権限に基づいて定款認証まではこぎつけますが、「会社設立登記申請」ができません。

仮に行ったとしても「付随業務」と称して会社設立の援助としてアドバイスをしているのが実情です。

もしも業として登記申請の書類を作成したり、実質的に代理申請を行っていたら、司法書士法78条1項に基づき、

1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されます。

ここでの報酬の有無は要件に記載されておりません。

つまり、司法書士でもなく業として設立登記申請の書面作成や代理を行うことは「犯罪」です。
なお、弁護士や公認会計士は合法となっています。

税理士に至っては、その資格だけでは「定款作成・認証」すら違法ですが、行政書士登録が可能なので、登録した上で「定款作成・認証」を行うことまでは可能です。

行政書士も税理士も、会社設立に関しては司法書士に外注依頼するのが本来の流れです。

私自身、「餅は餅屋」ということで、お客様から贈与についての依頼があり、贈与税の対象になりそうな場合は必ず提携の税理士を紹介するようにしています。相続税も同様です。
それが当たり前だと思っています。
無責任に贈与による名義変更を行わず、必ずその道の専門家をご紹介します。
債務整理において、弁護士に依頼した方が依頼者様の利益になるケースだと判断した場合も同様に提携弁護士をご紹介しています。

外注。
一般的な価格であればそれで自然ですが、それでは「格安」をうたっている事務所は果たして全て外注依頼をしているのでしょうか・・・?

そもそも自分で行った場合でもかかる「24万2000円」から追い金7万円程度(事務所によりますが)で定款認証から設立登記から何から全てをやる司法書士費用って、そんなに高いのでしょうか。
必要書類のご案内、裏付けのある会社法知識からの定款作成、認証、登記申請。実現するスムーズな設立。そこまで行った仕事にはそんなに価値がないのでしょうか。

以前、お客様からされた質問

「知り合いが設立を「格安」でやってくれるサイトがあると言っているので、そちらにするかも知れない。」と仰るお客様がおりました。

こういったケースは少なくないと思います。

もちろん、合法であればとやかく言う事ではありませんが(半ばダンピングのような価格であればどうかと思いますが・・)「無資格者が行っていた場合は、その業者は違法になりますよ。」という旨の回答をしたら大変驚かれていました。

「会社設立登記」に関して業界の外の方は司法書士の独占業務である認識も薄く、単に安い業者に依頼する感覚の方が多いのだと思います。

世の中、無資格者に税務相談や確定申告を依頼したり訴訟代理の依頼をする人はそうそういないですし、いたとしても大変珍しいと思います。

例え手続きが簡単だとしても弁護士でも何でもない人に「簡単な訴訟」についてアドバイスを受け、そのままの訴状を提出するものなのでしょうか?

会社設立登記だけ何故か色々な方が参入している現状にはとても違和感を覚えます。

結論として、お客様には依頼先を選ぶ自由がありますが、その

依頼先がしっかりとした業者か知った上でのご依頼

であれば、問題ないと思います。

まとめ

このような現状を招いた一因として、司法書士会ないし司法書士会連合会の怠慢がある思います。

司法書士が何をやっているか、名称が紛らわしい司法書士と行政書士で何が違うのか、こういった部分でしっかり広報してもらいたいとともに、違法な業者をしっかり監視、報告すべきだと思います。

士業の中では弁護士会に次いで2番目に高い会費を月額2万円近く払っているので、その分しっかりと会員全体に還元して欲しいと切に願います。

ちょっと愚痴っぽくなってしまいましたが、私に限らず「知識」や「技術」を売る仕事をされている方は、仕入れが無いからと安く見られがちな立場なので、少しでもそういった人達が値切られずに正当に評価される世の中であって欲しいと思います。