相続登記は放置されがちです。
近年、相続登記義務化で原則3年以内の登記義務が課され、10万円以下の過料の対象となりましたが、義務化されなくても放置のデメリットが存在します。
特に、時間をかけてご自身で相続登記をされたい方にとっては、以下のデメリットによってその手続が難しくなり、専門家に依頼することが多くなります。
また、内容によっては専門家に支払う手数料や実費ほか、費用が多くなります。
①相続当事者の増加
人が亡くなった後に数年、数十年経つと相続人が亡くなることがあります。
それを繰り返すと、当初3人くらいだった相続人が10人を超えることがあります。
元が8人くらいの兄弟姉妹の相続人の場合においては、当初亡くなった方との年齢が近い関係からか、数年で20人近くまで相続当事者が増える可能性があります。
面識のない、多数の相続当事者と果たして「この不動産を誰が相続するか?」という点について決められるでしょうか?
この意見集約を専門家に依頼した場合は当然にコストもかかりますし、時間もかかります。
認知症の方がいたり話し合いに応じたくない方がいたりすると、もはやゴールが見えなくなります。

②公的書類の紛失・廃棄
相続登記には亡くなった方の住所を証明する書類が必要です。
例えば、公的書類として住民票除票の写し、戸籍除附票の写しがこれにあたります。
これらの書類は以前の法令では5年で廃棄されていました。
その場合は、亡くなった方の登記済証(いわゆる権利書)を添付することを求められる可能性があります。この登記済証も、無くなって年数を重ねれば重ねるほど紛失のリスクがあります。
現在は、住所を証明する書類の保存期間が延びたのでそこまで気にする必要はありませんが、以前から放置し続けて既に公的書類が廃棄された方は、手遅れとなります。
内容によってはご自身で登記申請するのが難しくなるので、専門家に依頼する可能性が高まります。
③不動産に抵当権がある場合
例えば、亡くなった方が住宅ローンで購入した不動産で、相続登記のほか、団信保険による返済完了があった場合には「抵当権抹消」の登記申請が必要となります。
この登記には、金融機関が保有している書類、発行した書類が必要になります。
金融機関が発行した「解除証」「委任状」などには、その金融機関の「代表者名」が記載されております。
亡くなった後、つまり保険による返済完了の後、数年放置した場合には金融機関の代表者が既に変わっていることがよくあります。
書類の再発行手続が必要になりますので、これも手続の難易度や時間、費用に影響を及ぼします。
代表者だけではなく、金融機関には「合併」「本店の移転(お引越し)」「商号変更(名称の変更)」が発生することもあるので、なるべくお早めに手続に着手しましょう。
また、とても古い抵当権が付着しており、法人登記を放置しすぎて既に登記が閉鎖されている法人が抵当権者の場合もあります。これは相続と直接関係ないのですが、こういった場合にも手続が難航する要因となります。
法人代表者が既に行方不明または無くなっていたりすることもあります。
いざ「不動産を売ろう!」と思って登記を調べて発覚するケースもあります。
④所有権仮登記がある場合
特に農地に多いケースですが、所有権の「仮登記」が付着している場合があります。
一例を挙げると、「農地法の許可があった場合」を条件として所有権移転がされる仮登記があり、遠い昔に登記されているケースが多々あります。
これを抹消、消す必要があるのですが、抹消するにもその条件付所有権の権利者が手続を行う必要があり、この権利者が亡くなっていた場合や、「①相続当事者の増加」のようなケースで当事者が増えていると手続が難航します。
⑤まとめ
以上のように、不動産の相続を放置、登記を無関心のまま放置すると大きな落とし穴にはまる可能性があります。現在相続が発生している方や、ご自身が関係ないと思っている方も、今一度登記を確認し、安全を確認した方が良いかもしれません。
もしかしたら全く知らない誰かの権利が付着していたり、思っていた人と名義人が違うこともあるかもしれません・・・。