大阪で地面師の被害があったようです。
被害額は約14億円とされ、手口は、物件の所有者を装った法人で売買契約を交わし、代金を振り込ませたとされます。
地面師の被害と言えば有名なのが、55億5千万円の被害があった積水ハウス地面師詐欺事件です。
本件は話題になったドラマ「地面師たち」のモデルになった事件と言われ、こういった犯罪スキームが世に知られる大きなきっかけとなりました。

私は司法書士なので、売買の場面に立ち会います。
専門家としての視点で、こういった手法が可能なのか、どのような手口が考えられるかを見ていきます。

大阪での地面師の手口

yahooニュースの記事では、会社役員の容疑者が代表を務める会社を、物件を所有する会社と同じ名称とするよう登記を行ったとされます。
また、容疑者らは物件を所有していた不動産会社代表になりすまし、偽造免許証などを使って本来の所有者である会社の登記も変更し、この会社の新代表になったなどと言い、購入希望の会社を信用させていたとされます。読売新聞オンラインの記事では、不動産会社の代表に就任したとする虚偽の登記変更が行われたとの記載があり、会社の登記の変更はこの件であると考えられます。

まとめると、以下の手法があったとされます。

  • 同じ会社名を名乗って不動産所有者を装う
  • 不動産を所有する会社の代表者に就任したとする登記を勝手にする

結果的に物件を所有する会社の代表でもなんでもない人が勝手に代表を名乗って代金を振り込ませたことになります。
果たしてこのような手法が可能なのか、全てのチェックを通過できるのかは少し疑問に思う点があります。

同じ会社名を名乗って不動産所有者を装う手口

会社名は同一のものを名乗ることが一応可能です。
会社名を検索すると、同一の会社名の法人が容易に見つかります。
しかし、これでは不動産所有者を勝手に装うことができるのではないか、一般的にはそのように考えてしまうのではないでしょうか。

不動産登記の登記名義人、すなわち本件で言う所有者はその氏名や名称とともに「住所」「本店」も記載されます。
記載例として、法務省のウェブサイトに掲載されていますのでご参照ください。

登記事項として、所有者の住所、氏名が公開されています。
仮に会社が本来の所有者の名称を名乗ったとしても住所(本店)が不一致では同一性が担保されません。
住所が変わったのであれば、その履歴も会社の登記に残るため、基本的にはこの手法で騙し切るのは難しいと考えます。
せいぜい最初の交渉場面で「ああ、所有する会社だけど住所変わってるのね」と思わせるのが限界であり、進行していくごとにボロが出ます。
「じゃあ住所を同じにすればいいじゃないか」と考える方もいらっしゃると思いますが、それも不可能です。
商業登記法第27条において同一住所で同一名称の会社の登記は禁じられており、その登記申請は却下されるからです。
加えて、最近は不動産登記で会社が所有権登記名義人となった場合は法人番号が記載されるので、新しいものについては法人番号不一致で一発バレしてしまいます。

このように本件の方法は専門家としては穴だらけに思えます。

なお、会社法第8条では、「不正の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない。」とされており、会社名は好き勝手名乗れるわけではないことに留意しましょう。

不動産を所有する法人の代表者に就任したとする登記を勝手にする手口

そもそも勝手に他人の会社の代表者として就任の登記をすることができるか、という点があります。
代表者の就任含む会社の登記申請は、会社の代表者の会社実印の押印が必須です。
会社の実印の無い他人が申請するのは不可能ですが、これは印鑑届を提出し、新たに別の印鑑を実印登録することでクリアしたのかも知れません。
これをクリアするためにはまずその他人が代表取締役に就任したとされる資料が必要です。
株主総会議事録や取締役会議事録、就任承諾書がそれにあたりますが、特に代表選出の議事録はその作成者の実印または既存の会社実印を押印する必要があり、容疑者はこれらをどうやって作成したのでしょうか疑問が残ります。

ネット記事では「偽造免許証などを使って」登記されたとされていますが、免許証の写しでクリアできるのは「平取締役」や「監査役」の本人確認証明書として書類添付するケースくらいで、代表取締役の選定についてはこれでは足りないと感じます。

私の結論としては、偽造免許証ごときでは代表取締役の就任は難しいと考えますが、詳細の情報がわからないので結論は出ません。
仮に容易にそれを達成できる手法があるのであれば、そもそも私はこのように記事にはしません。
何故なら模倣して犯罪に利用される可能性があるからです。
同様の意味で警察も手法について公開していない可能性もありますね。

しかし、いったんこれが成立し、正規の(内容は虚偽ですが)会社の印鑑証明書が発行されるとすれば私としては脅威です。
形式的に全く問題ないものが発行されてしまうのならば何をチェックして判断すれば良いか難しいところです。