会社設立をした後に登記を確認せず放置し、記載内容が古いままになっている会社がよくあります。
このように、登記されている内容について変更する事実があるにもかかわらず登記をせず、怠った場合は会社法915条および976条の規定により「100万円以下の過料」の対象となっております。

以下の通り、2週間以内に登記をするのが義務となっております。

(変更の登記)
第915条 会社において第九百十一条第三項各号又は前三条各号に掲げる事項に変更が生じたときは、二週間以内に、その本店の所在地において、変更の登記をしなければならない。

その中でも放置が多いケースは、

  • 役員の選任の登記
  • 役員の住所変更の登記

この2点が圧倒的です。
例えば会社名や本店、会社の目的が変わったら「ああ、登録してる内容変えなきゃな。」と意識するものですが、役員の選任に当たってはそもそも「任期」という意識が薄く、知らないうちに任期満了するケースが多いです。
また、住所変更についても住民票の転居届を終えた後に満足して忘れるケースが多く、特に代表取締役以外の方の住所は意識の外にいってしまいがちです。

役員選任の登記

役員の任期

株式会社の役員(ここでは取締役と監査役を想定します。)の任期は、非公開会社については最大で「選任後十年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」伸長することができ、多くの会社はこの規定を最大限使って任期を伸ばしているケースが多いです。
10年まで引きのばしたは良いが、10年も経って忘れるという事態は想像に難くないと思います。

また、任期の原則として取締役は「選任後二年以内(監査役は四年以内)に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」です。
これは定款の規定により伸長や短縮がなされている可能性があるので、ご自身の会社の定款を一度ご覧になって任期を確認することをおすすめいたします。

権利義務取締役(監査役)

余談ですが、任期満了した場合に直ちに役員としての権利が無くなる訳ではありません。
会社法には次の規定があります。

(役員等に欠員を生じた場合の措置)
第346条 役員(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役若しくはそれ以外の取締役又は会計参与。以下この条において同じ。)が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員(次項の一時役員の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。

これは、任期満了により役員が退任、欠員が生じる場合はそのまま役員として業務を行うことを意味します。よく「権利義務取締役(監査役)」と呼ばれる存在です。
なお、当然ながら役員の人員が十分である場合はこの規定の対象とならず、退任となります。

選任懈怠

賢い方は権利義務取締役(監査役)の規定を見て「選任さえしなければ事実は変更されていないから義務違反にならないのでは?」と考えると思いますが、この抜け穴も塞がれております。

会社法976条22号には「取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役)、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人がこの法律又は定款で定めたその員数を欠くこととなった場合において、その選任(一時会計監査人の職務を行うべき者の選任を含む。)の手続をすることを怠ったとき。」も過料の対象となる旨が記載されております。

つまり、結局は役員更新するために選任した上で登記を放置すると「登記懈怠」として過料の対象となり、選任そのものをしなかった場合は「選任懈怠」としてこれも過料の対象となります。

結局は任期を確認し、しっかり登記しなくてはなりません。
例え役員が再任、同じ役員構成だったとしても登記が必要です。

みなし解散規定

登記を放置すると罰則以外にも次のリスクがあります。

(休眠会社のみなし解散)
第472条 休眠会社(株式会社であって、当該株式会社に関する登記が最後にあった日から十二年を経過したものをいう。以下この条において同じ。)は、法務大臣が休眠会社に対し二箇月以内に法務省令で定めるところによりその本店の所在地を管轄する登記所に事業を廃止していない旨の届出をすべき旨を官報に公告した場合において、その届出をしないときは、その二箇月の期間の満了の時に、解散したものとみなす。ただし、当該期間内に当該休眠会社に関する登記がされたときは、この限りでない。

これは株式会社が対象ですが、12年ものあいだ登記せずに放置すると勝手に会社を解散させられる可能性があります。
一度解散すると再度復活させるための登記が必要でコストもかかり、併せて役員登記の放置で過料の恐れもあります。
やはり会社を一度設立しても登録事項は手放しのまま、といかないのが現実です。

任期が無いもの

特例有限会社の取締役や監査役、合名会社・合資会社・合同会社の業務執行社員や代表社員は任期の規定がありません。
したがって、このような登記義務については安心できると思われますが、事項の「住所変更」という落とし穴があります。
また、当然ながら死亡による退任などは任期にかかわらずすぐに登記申請しましょう。

役員の住所変更の登記

意外と見落としがちなのが住所です。
株式会社では代表取締役の住所は登記されますが、平取締役や監査役の住所は登記されません。
したがって、多くの株式会社にとっては代表の住所さえ気にしていればいい、という意識になるかと思います。
合同会社においても代表社員の住所が登記されるので、同様に考えられます。

ここで気を付けたいのが、以下の者の住所が登記されるという事実です。

  • 有限会社の全取締役・監査役
  • 合名会社・合資会社の社員(出資者、株式会社で言う株主と類似した立場です。)

有限会社は役員任期の関係か登記が放置されやすく、合名会社・合資会社の社員(出資者)についてはそもそも「役員じゃないから登録とかされていないのでは?」という意識の方もいらっしゃいます。
これらの住所変更のケアも必要なので、注意しましょう。

なお、婚姻や離婚等による氏名の変更については住所の記載関係なく登記が必要になりますので、この点もご注意ください。